包丁を握って、50年。
世界中の食材を食べてきました。
最後に驚かされたのが、まさかバナナでした。
その理由を、少しだけ聞いてください。
うまいものがあると聞けば、
どこへでも行きました。
十代のころに料理の道へ入って、気づけば50年が経っていました。国内はもちろん、海の向こうの市場、畑、漁港。「そこにしかない食材がある」と聞けば、どこへでも足を運んできました。
一流と呼ばれるものは、ひと通り口にしてきたつもりです。だから正直に言えば、この歳になって驚かされることなんて、もう無いと思っていました。
「なんだ、これは」
木の上で完熟させた国産バナナを、初めて口にしたとき。香りが違う。舌に残る甘さが違う。皮ごと、そのまま食べられる。50年やってきて、思わず声が出ました。
世界中を回って、最後に驚かされたのが、まさか日本のバナナだったなんて。自分でも笑ってしまいます。
最後に驚いたのが、バナナだった。
あれは、別の食べものです。
店に並ぶバナナのほとんどは、長い距離を運ぶために青いうちに収穫され、輸送のあいだにガスで追熟させたもの。それが悪いわけではありません。ただ、木の上で熟しきったバナナとは、まるで別の食べものなんです。
料理人として、この違いを知ってしまった以上、黙っているわけにはいきませんでした。
ほとんどの日本人が、
この味を知らないまま。
日本のバナナ自給率は、たったの約1%。輸入バナナが年間およそ100万トン(その75%がフィリピン産)流通する一方で、国内産はわずか約100トン。沖縄・鹿児島・宮崎などで、ほんの少しだけ育てられているだけです。
うち75%がフィリピン産
沖縄・鹿児島・宮崎ほか
国産は全体のわずか約1%。無農薬となると、その数はもっと少なくなります。
つまり、ほとんどの日本人が、この味を一度も知らないまま一生を終える。それが料理人として、どうにも我慢がならなかった。だからこの歳になって、包丁ではなく鍬を持ちました。
一度でいい。
食べてみてほしいんです。
農薬は使いません。皮ごと食べられるものを、小さな子どもにも安心して渡せるものを。50年、人の口に入るものをつくってきた人間として、そこだけは譲れませんでした。
SNSを見てくれる人、コメントをくれる人、そして実際に手に取って応援してくれる人。まだ小さな農園にとって、その一つひとつが本当に大きな力になっています。うちのバナナが育つまでの日々を、これからも一緒に見ていってもらえたら嬉しいです。